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大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)8号 判決

京都市上京区大宮通寺之内下る東入西北小路町四四三番地

控訴人

地土正秀

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条通南洞院東入元真如堂町三五八番地

被控訴人

上京税務署長

今堀和一良

右指定代理人

浅尾俊久

工藤敦久

中野英生

堀健一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四九年九月一一日付でなした控訴人の昭和四六年及び昭和四七年分所得税の更正処分のうち、昭和四六年分につき総所得金額七二万円を、昭和四七年分につき総所得金額八〇万円をそれぞれ超える部分及び各過少申告加算税の賦課決定処分を何れも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は次の点を付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人の昭和四七年度外注費は五六万四五三〇円で、同年度の控訴人の売上額を控訴人主張の四五九万一五七六円とした場合の外注費率は一二・二九パーセントであって、これは原判決添付の別表三(以下単に別表三と言う)の同業者の同年度の外注費率と近似しているから、控訴人主張の右売上額は正当であり、原判決認定の売上額では、控訴人の外注費が右同業者より少ないのに売上額がこれより多いこととなって不合理である。

二  控訴人方の昭和四七年度の原価及び一般経費(以下単に一般経費と言う)は次の事情から例年より増加していたから、これに同業者率を乗じて控訴人の収入金額を算出するのは合理性がない。

1  広告宣伝費及び接待交際費

昭和四七年七月にメガロコープと言う四〇〇世帯余の入居するマンションが建ち、得意先を獲得するために、入居者にチラシ、タオル等を配って宣伝し、又管理人、自治会役員等に贈答品、中元、歳暮等を配った。

2  修繕費

控訴人は義父からクリーニング店を引継いだものであるので、機械が古く故障が多いために同業者より修繕費が高くついている。

3  福利厚生費及び雑費

昭和四六年の従事者は中溝一人であったが、同人が昭和四七年二月にやめ、代って控訴人の弟と臨時に従事者一人を雇入れたので、福利厚生費が増え、又右臨時の従事者の募集のための雑費が必要であった。

4  弁償費

昭和四七年度に「No.ハ」ブロックの顧客南某から預ったカーペットを痛め、新品を五万一二一〇円で購入して弁償したもので、普通このような事故はない。

5  減価償却費

義父から引継いだ店の機械が古く故障が多かったので新しい機械を買替えたために、減価償却費が高くなっている。

三  控訴人方の昭和四七年度の従事人員数は合計三・四人である。即ち、控訴人の妻は出産や四才と七才の子供の世話もしなければならないから〇・八人分、中溝は二月にやめたから一二分の二ケ月で〇・一七人分、臨時の雇人は四月から月、水、金の隔日に来て貰っていたから一二分の九ケ月の半分の〇・三七五人分、弟も四月からであるが素人のため〇・八人分、鈴木は一〇月からで一二分の三ケ月で〇・二五人分であって、以上の合計は約三・四人となる。ところで、控訴人の昭和四七年の収入金額を原判決認定の六二四万〇八五四円とすると、従事人員一人当りの収入金額は一八三万五五四五円となる。そして前記別表三の同業者の従事人員一人当りの平均収入金額は一二一万七五五五円となるので、これとの比較からみても、控訴人主張の収入金額が正しく、原判決認定額では無理であることが判明する。

四  控訴人の昭和四七年度の一般経費は一四三万一六五二円であり、控訴人主張の同年度の収入金額は四五九万一五七六円であるから、原価及び一般経費率(以下単に一般経費率と言う)は三一・一八パーセントとなる。ところでこれと別表三の同業者のうち番号3の同業者の一般経費率二七・〇三パーセントとの差は四・一五パーセントであり、同2との差は五・八二パーセント、同1との差は八・〇八パーセントであるが、同3と同4との差は一〇・七六パーセントもある。従って、右3と4との差一〇・七六パーセントが容認されるのであれば、控訴人の一般経費率と右番号1、2、3の同業者らの一般経費率との差も当然容認されるべきであって、控訴人の一般経費率三一・一八パーセントは決して不当なものとは言えない。従って、控訴人主張の同年度の収入金額四五九万一五七六円は正当な額である。

五  原判決添付別表四の減価償却費の種類のうち備品とあるのは、ニコーポリカゴ(洗濯物入カゴ)、プラスケット、Aカウンター、クリーニング料金表、クリーニング仕上り品入箱、ポリスタンド(包装用ナイロン袋入)、ズボン掛(仕上ったズボンを掛けるもの)であるが、これらは償却資産ではない。

六  控訴人の昭和四七年度の毎月の電力使用量と外注に出したドライクリーニングの請求額は別表の通りである。そしてドライクリーニングの請求額の多い四ないし六月は忙しい月であるが、その月の電力使用量が他の月のそれに比して必ずしも多いとは言えないから、電力使用量とクリーニング業の収入金とは比例しない。従って、昭和四六年度の控訴人の収入金額を、昭和四七年度の電力使用量から計算することは合理性がない。

又昭和四七年度はメガロコープの新しい得意先ができたが、昭和四六年度にはそれがなかったから、両年度の売上金額にはかなりの変化がある筈である。

(証拠)

控訴人は甲第一〇四ないし第一一三号証、第一一四号証の一ないし三四、第一一五号証の一ないし四四、第一一六号証の一ないし、三一、第一一七号証の一ないし三四、第一一八号証の一ないし二九、第一一九号証の一ないし四二、第一二〇号証の一ないし四一、第一二一号証の一ないし二八、第一二四号証の一ないし三〇、第一二五号証の一ないし三八、第一二六号証の一ないし一〇第一二七ないし第一三六号証、検甲第一ないし第八号証(控訴人方のクリーニング受託品のネームの写真)を提出し、当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

被控訴人は、右甲号各証の成立及び検甲号各証についての控訴人の主張は何れも不知と述べた。

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は何れも失当であると判断する。

その理由は次の点を付加、訂正するほか原判決理由の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二六枚目表一行目の「原告主張」を「原告の主張」と、同二七枚目裏五行目の「No.8」を「No.ハ」とそれぞれ訂正し、同七行目の「その名称」から同九行目の「できず、」までを削除し、同一一行目の「できないことをも考え合せると、」を「できないから、」と訂正する。

2  同二六枚目裏五行目冒頭から同二七枚目裏一行目までを「そして、控訴人主張の収入金額四五九万一五七六円から後に認定の一般経費一四三万一六五二円並びに特別経費二三五万〇〇八〇円を控除すると、控訴人の昭和四七年分所得金額は八〇万九八四四円となるところ、成立に争いのない乙第一五号証によると、京都市における同年の一世帯当り平均一ケ月の消費支出額は世帯三・八六人で九万九六三五円であり、原審における控訴人本人尋問の結果によって認められる控訴人方の同年の世帯人員五・五人(同年五月出生の子を〇・五人とした)に引直すと年間一七〇万三六〇〇円余となるから、控訴人主張の収入金額では、その年間所得金額が右平均消費支出の二分の一にも満たないこととなるのであり、又原審証人高田初夫の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証の一によると、控訴人は同年中に合計三二四万六〇〇〇円の機械設備の投資をしていることが認められるのであって、これらの点を考え併せると、控訴人主張の同年度の収入金額は低きに過ぎるものと言わねばならない。」と改める。

3  控訴人は、別表三記載の同業者らの昭和四七年度の外注費率と控訴人のそれとの比較から、控訴人主張の同年度の収入金額は正当であると主張するが、原審における証人高田初夫の証言及び控訴人本人尋問の結果によると、クリーニング業における外注にはドライクリーニングのほか、洗張り、しみ抜き、染、京洗い、修理、カーペットクリーニング等種々なものがあり、外注費と収入金額とは必ずしも関連しないことが認められるから、外注費率による収入金額の推計が合理性を有するものと認めることは困難である。

従って控訴人の右主張は採用し難い。

4  控訴人は、昭和四七年度の控訴人方の一般経費は例年より増加しているから、これに同業者率を乗じて収入金額を算出するのは合理性がない旨主張するので検討する。

原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、昭和四七年七月にメガロコープと言う四〇〇世帯の入るマンションができて、控訴人はそこの顧客を獲得するために広告宣伝をしたことが認められ、そのための広告宣伝費が例年に比して増加したことが推認される。又前認定の通り、控訴人は同年中に三二四万余円の機械設備の投資をしたものであるから、これに伴う減価償却費も前年に比して増加していることは明らかである。然し、同業者の一般経費率を算出する各経費項目毎の支出は同業者それぞれの事情に応じて差異のあるのは当然であって、惑る費目については控訴人が他の同業者に比して多額の費用を支出しているものもあれば、逆に他の費目については同業者に比して少額に止まっているものもあると推認されるが、これらの差を無視して算出されたのが一般経費率についての平均値である。従って、控訴人の広告宣伝費等の支出が、右平均値によって推計することを根本的に不当とする程度のものである場合は格別、左様な事情の認められない本件においては、控訴人が昭和四七年度の広告宣伝費を例年に比して多く支出し又減価償却費も例年に比して高額となったことを斟酌するを要しないものと言うべきである。

5  控訴人は、昭和四七年度の控訴人方の従事人員数三・四人として、一人当りの収入金額を算出し、前記別表三記載の同業者のそれとの比較から、控訴人の同年度の収入金額を原判決認定額と認めることは無理であると主張するが、事業の従事人員数は、経費の節減、設備改善による能率の向上等によって低く抑えられる場合があるのであって、現に控訴人の場合、原審における控訴人本人尋問の結果によると、昭和四七年にメガロコープの顧客八〇世帯の増加があったが、そのために特に従業員を増やすことなく、或る程度無理があったが人手不足の状態のまま経過したことが認められる。従って、従事人員数一人当りの収入金額の比較のみから、前記推計にかかる控訴人方の右年度の収入金額が多きに過ぎるものと言うことはできない。

6  控訴人は、昭和四七年の控訴人の一般経費率三一・一八パーセントは、別表三の番号1ないし3の同業者の一般経費率と近似し、その差は同表の番号3と4の同業者の一般経費率の差より小さいことを理由に、控訴人主張の経費率を認めるべきであると主張する。然し、本件においては、控訴人の昭和四七年の収入金額の実額を把握する証拠がないので、控訴人と営業規模等が類似しその他一定の条件を具備した同業者四名を選び、それらの者の一般経費率の平均値をとって、これを同年の控訴人の一般経費の実額と認められる一四三万一六五二円に乗じて収入金額を推計すると言う方法をとったものであって、控訴人主張の一般経費率三一・一八パーセントの当否が問題であるのではない。

又右主張が、右推計に当って控訴人主張の経費率を採用すべきであると言うにあるとすれば、右三一・一八パーセントと言う数字は、控訴人の昭和四七年度の収入金額が控訴人主張の四五九万一五七六円であることを前提として算出されたものに過ぎないもので他に何等の根拠もないのであって、それが前記同業者の一般経費率に近似していると言うだけでは、右推計の基礎として採用し得ないことは言うまでもない。従って、控訴人の右主張も採用できない。

7  控訴人は、原判決添付別表四の減価償却費のうち備品は償却資産に該当しない旨主張するが、右備品も償却資産であることは減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一の「器具及び備品」の記載によって明らかである。

8  控訴人は、外注に出したドライクリーニングの請求額が多い四ないし六月は控訴人方の仕事も忙しい月であるが、右各月の電力使用量は他の月のそれに比して必ずしも多くないから、電力使用量とクリーニングの収入金額とが比例するとは言えない旨主張するので検討するに、原審証人石田一郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証の三によると控訴人方の昭和四七年一月から一二月までの動力用電力の使用量が別表の通りであることが認められるが、控訴人方の外注に出したドライクリーニングの毎月の請求額が別表の通りであることについては、当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一四ないし第一二〇号証の各一、第一二二号証の二、第一二三ないし第一二五号証の各一には右主張に添う記載があるが、他方右控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇四ないし第一一三号証には右金額とは異なる金額をドライクリーニングの料金として領収した旨の記載があるので、毎月のドライクリーニングの外注額が別表の通りであったと認めることは困難であるし、又ドライクリーニングの請求額が多い月は控訴人方の仕事も多い月であると言う点についてもこれを確認するに足る証拠はない。のみならず、電力使用量とクリーニングの収入金額とが比例するか否かを検討するについては、電力使用量の検針日や控訴人方のクリーニング料金の締切日が必ずしも毎月末等に統一されているわけではないから、一ケ月毎にその対応関係を考えるのは相当ではなく、年間を通じてみるのが相当であると考えられる。従って、仮に毎月の電力使用量とクリーニングの収入額とが比例しないことがあっても、そのことから直ちに年間の電力使用量とクリーニングの収入金額とが比例しないものと言うことはできない。

又控訴人は、昭和四七年にはメガロコープの新しい得意先ができたが、昭和四六年にはそれがなかったから、両年度の売上金額にかなりの変化があった筈であると主張し、控訴人が昭和四七年にメガロコープの新しい得意先約八〇世帯を獲得したことは先に認定の通りであるが、前記乙第八号証の三原審証人石田一郎の証言によって真正に成立したものと認められる乙第八号証の二によると、控訴人方の動力用電力の使用量は、昭和四六年は一三八九キロワットであったのに対し、同四七年は一四八二キロワットであって前年に比して一〇〇キロワット増加していることが認められるのであるから、顧客数が増えそれだけ仕事量が増えるに従って電力使用量も増えていると言うことができる。

従って、昭和四七年に新たにメガロコープの顧客が増えたと言う事実は、電力使用量から昭和四六年度の収入金額を推計するについてその妨げとなるものではないと言わねばならない。

以上の次第で、控訴人の右各主張何れも採用できない。

二  そうすると、原判決は正当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 林義一 裁判官 稲垣喬)

別表

昭和四七年ドライクリーニング請求額と電力使用量の比較表

〈省略〉

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